AMR(薬剤耐性)への挑戦

薬剤耐性(AMR :Antimicrobial resistance )は、世界が直面する最も深刻な公衆衛生上の課題の一つです。細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの病原体が変化し、これまで有効であった薬剤が効きにくくなる状態を指します。薬剤耐性が進行すると、一般的な感染症の治療が困難になるだけでなく、手術やがん治療などの日常的な医療行為に伴うリスクも高まります。現在の状況が改善されなければ、今後25年間で約3,900万人が薬剤耐性病原体に関連して死亡すると推計されています。

地球規模の課題に日英で取り組む

当財団は、薬剤耐性(AMR)への世界的な対応の強化を目的として、ウォーリック大学およびパートナー機関が主導する総額150万ポンド規模の5年間のプログラム(2024年開始)を支援しています。本プログラムを通じて、AMR対策に関する日英間の長期的な協働を推進するとともに、抗菌薬の研究開発から適正使用に至るまで、その基盤となる幅広いエコシステムの強化を図り、より良い健康成果の実現につながる環境づくりを目指しています。

本プログラムには、ウォーリック大学サー・ハワード・ダルトン・センター(Sir Howard Dalton Centre)、開発学研究所(Institute of Development Studies:IDS)、英国健康安全保障庁(UK Health Security Agency:UKHSA)、国立研究開発法人国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine:NCGM)、ならびに日本健康危機管理・健康安全保障総合研究機構(Japan Institute for Health Security:JIHS)をはじめとする日英の主要機関が参画しています。

「アリシア・デミルジャン博士や松永信明博士のような卓越したリーダーたちが、薬剤耐性(AMR)に関するグローバルな政策において、私たちが必要とする制度レベルの変革に影響を与えることができるプログラムを構築してきました。」

クリス・ドウソン教授、サー・ハワード・ダルトン・センター共同ディレクター

2025年の主な活動

A man uses a pipette in a lab
Dr Adrian Lloyd, Associate Professor at Warwick University.

2025年は、本5か年プログラムにおける重要な節目の年となりました。当財団の支援により、国際協力の強化と、抗菌薬の研究開発および政策形成を支える仕組みの改善に取り組む2つの政策フェローシップが実施されました。英国ではアリシア・デミルジャン博士が「デイム・サリー・デイヴィス・フェローシップ」に、日本では松永信明博士が「塩崎恭久フェローシップ」に就任しました。両フェローは、英国健康安全保障庁(UKHSA)や日本健康危機管理・健康安全保障総合研究機構(JIHS)をはじめとする関係機関と連携しながら、研究者、資金提供機関、規制当局、医療従事者、製薬企業が、薬剤耐性(AMR)という世界的課題に対して、より効果的に協働するための方策を検討しました。

2025年2月には、両フェローがウォーリック大学および開発学研究所(IDS)の関係者とともに大阪・東京を訪問し、第1回AMR政策フェローシップ・ワークショップに参加しました。同ワークショップでは、これまでの成果や新たな提言について、パートナー機関および関係者との意見交換が行われました。また、塩野義製薬および北里大学との会合も実施され、日英両国における研究・臨床・産業分野の連携強化につながりました。その後、両フェローへのインタビューは、薬剤耐性(AMR)の脅威が高まる中、その緊急性と対応の必要性を取り上げたNHK WORLD-JAPANの特集番組で放送されました。

同年には、政策および研究の両面で重要な成果も生まれました。松永信明博士は、日本における抗菌薬創薬エコシステムに関する包括的な報告書の共同執筆に携わり、同報告書は現在、日本の政策立案者にとって重要な参考資料となっています。英国では、アリシア・デミルジャン博士が、当財団の支援を受けるLeadership in Enhancing Antimicrobial Discovery(LEAD)コンソーシアムを通じて政策提言書の作成に貢献しました。同提言書では、抗菌薬創薬を促進するため、公共部門によるより戦略的かつ連携した取組の実現に向けた提言が示されています。こうした取組と並行して、ウォーリック大学と北里大学の間では創薬研究を中心とした共同研究が継続され、国際的にも重要な「大村コレクション」由来の微生物株を活用した研究などが進められました。

「この1年を通じて、治療困難な感染症に対する新薬開発をどのように改善できるかを理解するため、世界のイノベーション・エコシステムについての知見を深めることができました。
 また、英国健康安全保障庁(UKHSA)と日本健康危機管理・健康安全保障総合研究機構(JIHS)の間で、非常に有意義な協力関係を築くことができています。」

アリシア・デミルジャン博士、デイム・サリー・デイヴィス・フェロー
Six men and women in formal atire
Policy Fellows Dr Alicia Demirjian and Dr Nobuaki Matsunaga at the Shionogi pharmaceutical company in February 2025

今後に向けて

本プログラムを通じて、当財団は、より強固な機関間連携、政策提言、共同研究ネットワークの構築、そして薬剤耐性(AMR)に対する社会的認識の向上を促進し、AMR分野における持続的な国際的リーダーシップの基盤づくりに貢献しています。

また、本プログラムは、日英間の協力にとどまらず、より幅広い国際的な関心と協力を生み出しつつあります。英国と日本の研究機関の連携に加え、日本が主導する東アジア・東南アジア地域のネットワークであるARISEパートナーシップをはじめ、学術界、規制当局、産業界との新たなつながりも広がっています。さらに、両国の政策立案者、規制当局、製薬業界との対話も進展しており、ウォーリック大学と北里大学の間で継続している研究交流は、長期的な研究協力関係の強化につながっています。

本プログラムの長期的な目標は、地球規模の健康課題に対してより効果的に対応できる国際協力のモデルを構築することです。プログラムを通じて生まれた対話やネットワークは、すでに英国と日本を超え、インドや中国を含む国々との新たな連携の可能性を広げています。当財団は今後も、協働の促進、政策形成の支援、そして学術・科学交流への継続的な支援を通じて、薬剤耐性への対応における日英両国の貢献を後押しし、より強固で国際的につながったグローバルな取組の実現を目指してまいります。.